ごあいさつ

「見えないもの」とたたかい続けた10年。 東日本大震災からの、東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島を覆っているもの。

今でもまだまだわからないことが多く、事故の原因から被ばくのことまで専門家の間でも見解が分かれているこの問題。 事故当時、普通の母である私には、何が正しい判断なのかを知る術はありませんでした。

当たり前にできていたことが、当たり前ではなくなった原発事故後の福島。 この10年の間、その時々なりの問題にたくさんの人たちが悩み苦しみました。 住み慣れた大切な故郷からの避難を選択した人。避難をしたくても事情によってそれがかなわなかった人。そして、価値観の違いから家族、友人とのつながりを断ち切るしかなかった人。 何が正しい情報なのかわからず、様々なことを選択しなければいけなかった日々。 年を経るごとにそれに疲れきり、楽になれるわけではないとわかっていても、もうその話題に蓋をしてしまうしかない。 当たり前にできていたことを止められ、自粛を促され、思うように動けない我慢だらけの2020年の今の日本。心と身体の健康と、経済をまわすこととが天秤にかけられての様々な矛盾や、それも立場によって違うことでの葛藤。どの選択が正しいのかわからず、考えや価値観の違いに口をつぐむ瞬間もあったはず。でも、正解がわからない以上は「念のための行動をとるべき」。 この1年のコロナ禍を経験して、私は原発事故後の福島の状況とかぶって見えるところがいくつもあったように思います。

2011年に活動を開始した私たちは、市民がその時々で持つ放射能への不安に対し、選択ができるような判断材料を提供しようと活動を続けてきました。 そして、セシウム137の半減期は30年かかるということから、30年は子どもたちの未来を見守っていきたい。 そんな想いからの「ふくしま30年プロジェクト」の活動は、まだまだ続いていきます。

それぞれが正確な情報や知識を得て、自分で選択する、判断する、決める。 そのための、次世代の未来につながる学びの場の提供と情報発信。 これから20年先に、未来を担う子どもたちがすこやかに成長できる時代を迎えるために、私たちは福島が、そしてこの国が健全な暮らしを回復するさまを見守っていくつもりです。 そのときこそは不安なことを不安だと言える、価値観の違いを尊重し認め合える社会であってほしいと願っています。

理事長 佐原真紀